家族信託Q & A

家族信託の手続きの流れ

2022/08/03

家族信託の利用を考えている方に対して、どのように手続きを進めていけばよいか入口の検討段階から家族信託の設定方法、そして家族信託の利用を終了するまでの一連の手続きの流れを解説します。

目次

  • まずは情報収集をしましょう

  • 相談できる専門家を探す
  • 信託契約書の作成
  • 信託契約書の作成方法について
  • 信託財産の登記方法について
  • 信託口口座の開設と送金について
  • 手続き後の信託財産の管理について
  • 受益者の方が亡くなり信託を終了するための手続き

まずは情報収集しましょう

多くの方にとって、これまで認知症や相続といったことについて考える機会はそう多くなかったと思います。どのようなことが問題となりやすいか、また家族信託がどのような制度なのか、まずは情報収集されることをお勧めします。書店にはだいぶ一般の方向けの家族信託に関する本が増えていますし、セミナーも会場に出向いて参加するものだけでなくオンラインで気軽に参加できるものも増えています。また、家族信託について簡単に解説された動画も公開されていたりします。 

弊社でも家族信託について最短7分で分かる動画を公開しております。


■すべての動画をまとめてみる(所要時間:20分程)
https://app.box.com/s/fco6r3ws5rioqjm5fsq8dxdruuprir5g

■1.家族信託とは
https://app.box.com/s/tk7gig9j1qwtchp9ni0pcj6p1z329as6

■2.家族信託でできること
https://app.box.com/s/clg4uigwlhsuung1ra2jx80x8hop5p5m

■3.家族信託~よくあるご質問
https://app.box.com/file/706312186897?s=lej374myxf0y7iiyhtm5u36er1u8nipk


家族信託を検討されている子供世代の方にとって一番の問題は、どのタイミングでご両親と家族信託に関する話をするかだと思います。

ご家族の状況によっても様々な考え方がありますが、具体的な話をするのはある程度家族信託に関する情報を収集されて家族信託を活用するイメージがついてからが良いでしょう。家族信託をする際に委託者となる親世代の方が最も不安を示されるのが、財産の「名義が変わる」ことです。不動産を家族信託すると不動産の名義が親から受託者となる子に代わりますし、金銭を信託するとお金が親の口座から新たに開設した受託者が管理する信託口口座に移ります。言い換えれば、家族信託をすることで、親にとっては所有する財産が突然無くなってしまうようにも見えるわけです。信頼する我が子と言えども、これまで何十年にわたって蓄えてきた財産を急に動かすわけですからやはり慎重になる方が多いです。このため、まずは子供世代にある程度家族信託に関するイメージを持っていただき、その上でご両親とお話しいただくのが良いでしょう。

なお、家族信託の手続きを進めるために相続人全員の同意が必要か聞かれることがあります。家族信託の手続き自体は委託者と受託者の同意により進めることができるため、委託者の配偶者や受託者(子)の他の兄弟の同意は必要ではありません。ただし、家族信託は認知症対策としての生前における財産管理だけではなく、相続が発生した際の財産の分け方についても決めることが多いため、早い段階で家族信託を検討していることを他の家族とも共有いただいた方が後日トラブルになりづらいと言えます。

<ご参照> 家族信託とは?

相談できる専門家を探す

家族信託の手続きを進めることについて家族内で話し合われましたら、次はどの専門家に依頼するかです。家族信託の普及が進む中で精通した専門家も増えてきていますが、そうでないこともあります。依頼をする際には下記のような点から専門家を選ぶと良いでしょう。

家族信託の利用について具体的なイメージを交えて説明してくれる

家族信託の相談をする際には一程度の経験を有した専門家に依頼するのが良いでしょう。ただし、家族信託は比較的新しい制度であるため、ベテランの司法書士や弁護士、行政書士といった士業の専門家だからと言って家族信託の経験が豊富とは限りません。

見極めるポイントとしては、家族信託の利用について具体的なイメージを持って説明してくれるかです。経験が少ない専門家の場合、どうしても書籍等に基づく表面的な知識となってしまいますので、家族信託を活用している中でどのような問題が起きやすいか実務的な点についての説明が弱くなってしまいます。

税務についても相談できる

家族信託の相談先を探す際に一番重視されるのは「信託契約書を作れるか」、「信託登記をお願いできるか」の2点です。これは、これらの業務が家族信託の手続きを進める上で欠かせないものであるからです。一方で税務については、通常の家族信託であれば家族信託の手続き直後に税務署に法定調書の提出が必要になるケースはまれです。また、所得税や相続税の確定申告についても、家族信託の手続きを終えてしばらくしてから手続きが必要になるため、どうしても後回しにされがちです。しかしながら、家族信託の設定内容によっては思わぬ税金が発生してしまうことや、信託の内容を工夫することで相続税の負担を軽減できることもあります。このため、可能な限り、信託契約書や信託登記を対応する法律の専門家と、税務の専門家の連携が取れていることが好ましいです。

③費用が明瞭

家族信託の手続きに要する費用の金額水準や支払が必要となるタイミングは法律で決まっているものではなく、相談する専門家によって異なります。このため、手続きを依頼する際には事前に見積もりを依頼することが重要です。見積もりを提示された場合には、手続きの完了までに発生する費用の全てをカバーしたものであるか、そうでなければどのような費用がどれぐらいの水準で発生するか確認することをお勧めします。以下が家族信託の手続きを進める上で発生する代表的な費用です。 

(ア)家族信託のコンサルティングサービスおよび信託契約書の作成費用

(イ)信託登記に必要となる登記費用(司法書士報酬と登録免許税が含まれます)談できる専門家を探す

(ウ)信託契約を公正証書で作成する場合に必要となる、公証役場の手数料

(エ)信託口口座の開設手数料(金融機関によって異なります)

(オ)信託設定後の継続的な費用

相談先によっては(ア)契約書作成料及びコンサルティング報酬についてだけ見積もり、(イ)登記費用を含まないこともあります。また、(ウ)公証役場手数料については、信託契約書の文案ができてからでないと公証役場から費用が明示されないため、当初の見積もりには含まれていないことが多いです。(オ)継続的な費用は必ずしも必要となるものではありませんが、(ア)が非常に低額な場合は(オ)が設定されていることもあります。

弊社の家族信託コンサルティングサービス『家族でつなぐ』では、信託契約書の作成とコンサルティング報酬に加えて登記費用も見積書に含めることで、可能な限り手続きに必要となる費用のすべてを事前にお示ししながら進めております。弊社の費用テーブルについては下記リンク先をご参照ください。なお、弊社では基本的に⑤の継続的な費用は頂いておりません。

ホーム>費用について

 

    ④手続き後もサポートを期待できる

    既に手続きがなされた家族信託について、信託財産の管理方法について質問を受けることがあります。家族信託の手続きをした際の専門家に確認いただくのが当初の経緯も把握しており最も望ましいため、そのようにお話しすると「誰に聞けばよいのか分からない」と回答されます。詳しく伺うと、家族信託を提案したコンサルタントと信託契約書を作成した士業専門家が別の組織だったようで、コンサルタントともその場限りの関係で事後的な相談ができないとのことでした。事後的な相談に別途相談料がかかるか否かは別として、家族信託の手続きを行った後もサポートを受けられるかどうかも重要なポイントになります。

    家族信託の手続きを自分ですることは可能か?

    専門家を介さずに自分で家族信託の手続きを進めることは可能かとご質問いただくことがあります。家族信託の手続きは必ずしも専門家に依頼しなければならないものではありません。しかしながら、以下に記載してまいります内容を、初めて家族信託に取り組んだ方が一人で完結するのは非常に難しいと言えます。信託契約書の内容によっては思わぬ形で親族内のトラブルになったり、税金が発生したりすることがあります。また、信託口口座を開設する金融機関によっては、専門家が信託契約書を作成することを口座開設の条件にしていることもありますので、その点も注意が必要です。

    信託契約書の作成

    さて、家族信託に一緒に取り組んでもらう専門家が決まりましたら、次は信託の内容を決めて信託契約書に反映する手続きとなります。信託契約書の内容は非常に複雑であるため、専門家がご相談者の意向を確認しながら作成します。信託契約書を作成する上で必要な情報をヒアリングすることはもちろん、ご相談者が想定していないリスクなども確認しながら信託契約書の内容を詰めていくことになり、専門家として最も腕が問われる部分になります。信託契約書を作成する上で、ご相談者の方に決めておいていただく内容は主に以下の5点です。

    なお、信託契約書の打ち合わせ内容は詳細かつ多岐にわたり高齢者にとって難解であるため、受託者となる方と専門家の間で打ち合わせを進めて(受託者の兄弟姉妹が同席することもあります)、概要が決まったタイミングで委託者に重要な部分を説明する方法もとられます。

    1.信託の目的を決める

    「信託の目的」とは、信託を設定することによって達成しようとする目標・目的であり、受託者は信託の目的に基づいて財産の管理・処分を行うため、きわめて重要なものとなります。多くのケースでは受益者の生活費や介護費用を管理することを目的として家族信託を設定されます。また、親なきあと問題に対応するための家族信託など、当初受益者(最初に受益者になる方)が亡くなった後も信託が継続する前提の場合には、さらに信託の目的が重要となります。

    2.信託する財産を決める

    家族信託の特徴の一つとして、委託者が保有するすべての財産について当然に手続きが行われるのではなく、個別に指定した財産について手続きが行われます。多くの場合では金銭(預金)と自宅不動産を対象に家族信託の手続きが行われますが、金銭についても必ずしも委託者の預金全てを対象にしなくてもよく、預金の一部について金額を指定し手続きを行うこともできます。信託は一度きりではなく、手続きをした後から追加信託という形で信託する金銭を増やすこともできます。このため、委託者が全預金を対象に家族信託を進めることに難色を示している場合は、一部の金額について家族信託を進め、後日改めて残りの預金について検討するという方法もあります。

    なお、農地や有価証券など家族信託ができない、もしくは手続きが困難な財産もあります。このような財産については売却処分することや、別途遺言で対応することなど検討が必要となります。

    このほか、信託財産に関してよくいただく質問としては以下のようなものがあります。

    家族信託Q&A>「家族信託に適さない財産とは?」

     

    3.受託者を決める

    受託者とは信託財産の信託譲渡を受けて、信託財産の管理や処分を行う人のことを言います。信託譲渡を受けることで、所有権が受託者に移ることが特徴とも言えます。受託者には受益者のために財産の管理を行う義務が法律上も定められていますが、家族信託は基本的に委託者と受託者の信頼関係を基礎に成り立っている制度と言えます。ご相談いただく中には委託者の方が受託者となる子に一抹の不安を感じていることがあります。信託監督人の設置など受託者の不正を防ぐための仕組みを設けることも可能ですが、成年後見制度と異なり継続的に家庭裁判所が関与する制度ではないため、不安があるのであれば成年後見制度なども検討すべきと言えます。

    また、信託期間中に受託者が不慮の事故で無くなられたり、重い障害を負われたりして受託者の任務を続けられなくなることも可能性の一つとして想定されます。このような場合に備えて、信託契約書の中には後継受託者(バックアップ受託者)を決めておきます。後継受託者には受託者の兄弟姉妹や配偶者がなるケースが多いですが、親なきあと問題に対応するための家族信託など信託期間が長期に渡る可能性がある場合には、受託者の子を後継受託者とすることもあります。後継受託者の決定は、信託口口座を開設する金融機関が口座開設の条件としていることも多いため、基本的には必須の内容と言えます。

    このほか、受託者に関してよくいただく質問としては以下のようなものがあります。

    <家族信託Q&A>

    「家族信託で受託者になれるのは家族だけ?」

    「法人(株式会社、合同会社、一般社団法人)を受託者にすることは可能ですか?」

    「自分を受託者として家族信託を設定することは可能ですか?」

     

    4.受益者を決める

    受益者とは、信託の利益を享受する権利である受益権を保有する人で、信託が設定されると信託の主役となる人のことを指します。ほとんどの家族信託では委託者(信託財産をもともと持っていた者で、受託者に財産を託す人)が自分のために財産管理をしてもらうことを目的として手続きをするため委託者と受益者は同一になります。父の預金は夫婦の生活資金となっているので、両親のために財産管理をするのであれば、父親と母親が受益者になるように感じる方もいますが、父親の預金を父親と母親を受益者として家族信託を設定すると、税務上父親から母親に対して贈与が行われたとみなされて思わぬ税金が発生する恐れもありますので注意が必要です。

    また、受益者が亡くなった後は別の家族を受益者(二次受益者)として信託を継続する、いわゆる受益者連続型信託も可能です。受益者と次に記載する帰属権利者をどのように決めるかは非常に専門的な分野でもありますので、専門家に信託の目的を相談する中で一緒に決めるのが良いでしょう。

    このほか、受益者に関してよくいただく質問としては以下のようなものがあります。

    家族信託Q&A>「受益者を2人にすることは可能ですか?」

     

    5.帰属権利者を決める

    帰属権利者とは、信託契約が終了もしくは、当事者の合意により解除された場合に、信託財産を受け取る方のことです。受益者の死亡により信託契約が終了するパターンが一般的であるため、帰属権利者にどの信託財産を帰属させるか決めることは、遺言書で誰にどの財産を相続させるか決めることと同様と言えます。

    このため、信託契約書の詳細な部分は委託者が同席せず受託者と専門家の間で打ち合わせることがあっても、帰属権利者と帰属させる信託財産は必ず委託者の意向を確認しながら決める内容となります。

     

    信託契約書の作成方法について

    家族信託は信託契約書(私文書)として作成するほか、公正証書として作成する方法があります。公正証書で作成すると、原本が公証役場に保管されますので、万一手元で保管していた信託契約書を紛失した場合にも、公証役場から信託契約書謄本を取得することが可能です。

    信託契約を公正証書で作成するためには、専門家と打ち合わせた信託契約を公証役場に送り公正証書で作成するための依頼が必要になります。公正証書を作成する公証人から信託契約の内容について質問をされたり、修正の指摘がなされたりすることもありますので、このような対応も含めて専門家に依頼するのが良いでしょう。

    また、金融機関が定める信託口口座を開設するための条件として、公正証書で信託契約を作成することを求めているケースもあります。実際、多くの金融機関が公正証書での信託契約を条件としているため、信託口口座の開設が必要な家族信託については公正証書での信託契約の作成が必須と言えます。

    なお、金融機関は信託契約を締結する前に、事前に契約内容の社内チェックを要件としていることもあります。金融機関が信託契約を確認すると、記載内容の一部について修正を求められたり、内容について質問をされたりすることがあります。公証役場の対応と同様、金融機関のチェックについても対応をお願いできる専門家に相談いただくのが良いでしょう。

    実際、弊社がお受けしている家族信託についても、弊社で公証役場と金融機関の双方と調整をしながら手続きを進めております。

     

    信託財産の登記方法について

    家族信託の受託者には信託財産を自己の財産とは分別して管理をすることが義務付けられています。そのため、不動産を家族信託した場合には、委託者から受託者に単なる所有権移転登記をするのではなく、信託を原因として所有権移転及び信託の登記申請を行う必要があります。同時に、委託者や受益者、受託者など家族信託契約の主たる内容を記載した「信託目録」が対象となる不動産に付与されます。これによって、登記上も信託をしたことによって受託者に登記名義が移転したことが明示されます。なお、登記申請をする先は対象となる不動産を管轄する法務局になります。申請をしてから完了するまでの期間は各法務局の状況によって異なりますが、1週間程度を見込んでおくとよいでしょう。

    <家族信託Q&A>

    「信託目録って何ですか?」

    「信託目録の内容を確認するにはどうしたらよいですか?」

    「信託設定したときの登記はどうなりますか?」

     

      信託口口座の開設と送金について

      金融機関の対応にも拠りますが、信託口口座の開設は信託契約の締結後に行われます。前述の通り、信託契約書のドラフト段階で金融機関の事前確認を受け、締結後に公正証書で作成された信託契約を持ち込むなどして口座開設手続きを行います。

      そして、信託口口座が開設されましたら、委託者の口座から開設した口座に振り込み等の方法で資金を移動することで信託を行います。

      手続き後の信託財産の管理について

      信託契約を締結し、不動産の信託登記と、金銭の信託口口座への移動が完了しましたら、これ以降受託者の方は信託契約に基づいて信託財産の管理を行うことになります。

      賃貸不動産など確定申告が必要な財産を信託している場合は、確定申告の際に注意が必要な点が出てきます。このため、確定申告が必要な場合は家族信託の手続きをする段階で、どのような影響が生じるのか相談する専門家に確認しておくことをお勧めします。

       

      受益者の方が亡くなり信託を終了するための手続き

      受益者の死亡により終了する内容の家族信託の場合、受託者(厳密には清算受託者と言います)の方は、信託契約書に定めた内容に従って、帰属権利者に信託財産を分配する手続きを行います。信託財産に不動産がある場合には、この時点でもう一度登記の手続きが必要となります。また、預金については信託契約書に決められた内容で分配した後で、信託口口座を解約する手続きを行うことになります。

      信託契約の内容によっては、受益者の死亡により信託が終了することになっていない場合もありますので、家族信託の手続きをする段階で専門家に相続が発生した後の流れについてもご確認いただくのが良いでしょう。

       

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